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東京地方裁判所 昭和35年(ワ)3590号 判決

横浜市西区平沼町三丁目一二七番地

原告

日本勧業相互株式会社破産管財人

菅厚道彦

右訴訟代理人弁護士

永田喜与志

東京都千代田区霞ヶ関一丁目一番地

被告

右代表者法務大臣

高橋等

右指定代理人検事

山田二郎

法務事務官 望月正

大蔵事務官 小林良一

中島敏夫

右当事者間の昭和三五年(ワ)第三五九〇号不当利得返還請求事件につき、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し金二〇、三七三、七六〇円及びこれに対する昭和三二年一二月一五日以降支払済みに至るまで年五分の金員を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決、予備的に「被告は、原告に対し金二〇、三七三、七六〇円を支払え。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決及び各仮執行の宣言を求め、その請求原因として、次のとおり述べた。

一、日本勧業相互株式会社(以下破産会社という。)は、もと商号を西日本勧業振興株式会社と称し、不動産の売買、賃貸、仲介集金の受託、生命保険の代理及び小口金融等を目的として昭和二六年七月一一日設立されたものであるが、業務の大宗は、いわゆる株主相互金融方式による、株主との融資契約及び利殖契約の締結であつた。同社は、昭和二九年一一月九日横浜地方裁判所において破産の宣告を受け、当初須々木平次が破産管財人に選任されたが、昭和三二年一二月二六日同人が辞任したため、原告が破産管財人に選任された。

二、神奈川税務署長は、破産会社が株主との利殖契約に基づき支払つた利息名義の金員は、当時施行の所得税法(以下同じ。)第九条第一項第一号所定の預金の利子に該当するものとして、同法第三七条、第四三条、第五七条第四項に基づき、昭和二八年七月一五日以降次表のとおり六回にわたり、昭和二六年六月分に遡つて源泉所得税を徴収する旨の決定(以下、単に本件徴収決定という。)をして、それぞれその頃破産会社に通知した。

〈省略〉

三、これに対し、破産会社及び前破産管財人須々木平次は、次のとおり、本税、加算税、利子税、延滞加算税合計金二〇、三七三七六〇円を納付した。

〈省略〉

四、神奈川税務署長の本件徴収決定は、次に述べる理由により無効である。

1  破産会社は、庶民金融事業としてのいわゆる株主相互金融を標榜して設立された日本勧業振興株式会社の事業の伸展により、同社の多摩川以西の営業活動を引き受けるために設立されたもので、その営業方法も設立当初から日本勧業振興株式会社のそれを踏襲した。

2  破産会社の事業の大宗を占める株主との融資契約、利殖契約の概要は、次のとおりである。

(イ)  融資を希望する株主は、破産会社の株式(一株金五〇〇円)を最低六株だけ取得することが必要で、株式の買受け代金は通常は、破産会社が代金相当額を貸し付け、これを日賦によつて償還する方式をとり、所要の株式を取得した者に対しては六株を一口として、原則として最高一〇口まで融資することとした。破産会社の融資は、原則として株主に限られたが、非株主に対する融資の場合は、支払利息については破産会社が貸金業等の取締に関する法律第三条に基づいてした届出書添付の業務方法書の範囲内でその都度協定した。

(ロ)  利殖を希望する者は、破産会社の株式一株以上を取得すれば、破産会社の定める利殖契約のうち、いずれの種類のものを何口利用することもできた。株式買受け代金の支払方法は、融資株主の場合と同様破産会社が貸しつけて日賦償還の方法をとることが認められていたが、融資のための株主と利殖のための株主とは区別され、融資のための株主が利殖を希望するときは、新たに利殖のための株主にならなければならなかつた。昭和二八年三月頃の利殖契約の内容は、次のとおりである。

〈省略〉

(ハ)  この利殖契約の実態は、遊金を有する株主が、銀行その他の金融機関に預金する場合に比べて、より高利の対価を得る目的で、その金員を約款に定められた定型的方式で破産会社に貸与し、破産会社は、右借用金を融資希望の株主に貸与する外会社の営業目的に活用し、利殖株主に支払うべき元利金以上の利潤を得ることを目的とするものである。

3  利殖契約によつて支払われる利息は、預金の利子ではない。

(イ)  消費貸借と消費寄託との実質上の相違は、消費貸借にあつては、相手方から受け取つた金銭その他の代替物を借主において使用処分することを目的とするのに対し、消費寄託にあつては、相手方から受け取つた金銭その他の代替物を受寄者において保管することを目的とする点にある。このような観点から、問題の利殖契約を検討すると、前述のとおり、利殖契約において、株主としては金員の保管委託が目的ではなく、利息の獲得が目的であり、破産会社としては、金員の寄託を受けることが目的ではなく、それを借用することが目的であつたのであるから、利殖契約は消費貸借であつて、その利息は預金(消費寄託)の利子にあたるものではなく、従つて、株主において、貸与金員の返還については、銀行その他の金融機関の場合に比べて、多少の危険が伴なうことは、予め覚悟するところであつた。

(ロ)  また、これを形式面から見ても、約款、営業案内書、契約証書には、利殖契約借入金、利殖金、支払利息、利息付額面等の記載があり、利殖契約は約款に基づき定型的方式で締結されるもので、右約款はいわゆる普通契約条款に該当し、特にこれによらないことが合意されていない限り、約款によつて契約したものと推定すべきものであるから、利殖契約が消費貸借であることは明らかであり、契約証書に消費貸借としての印紙が貼用されていることも、この趣旨に出たものである。

(ハ)  私法上、預金の利子とは、銀行、相互銀行、信用金庫等特定の法律に基づき、免許、認可を受けて設立された金融機関が、法律で許容された受信業務として行なう消費寄託の対価として支払う金員を指称するものと解すべきところ、破産会社が金融機関でないことは明らかであり、また税法の沿革に徴しても、預金の利子に対する源泉徴収制度は、金融機関がその消費寄託の対価として支払う金員を正確に捕捉するために、大正九年八月一日、当時施行の所得税法に基づき創立されて今日に至つているものであつて、税法上からも、利殖契約に基づく支払利息が預金の利子に当たらないことは明白というべきである。

4  以上のとおり、本件徴収決定には、預金の利子に当らないものを預金の利子とした重大な瑕疵が存在するが、右瑕疵の存在は、次に述べるところよりして、明白なものといわねばならない。

(イ)  憲法を頂点とする法体系の下においては、各法規に用いられている同一の用語は、同一の意味に解するのが原則であり、租税法規は、私法秩序に規制された経済活動を前提として、これとの証整の下に、その独自の行政目的を達成することを基本的な建前とするものであるから、租税法規において、私法上の概念をもつて課税要件が規定されている場合には、特にその意味を私法と異なつて使用する明文の規定の存しない限り、それは私法上使用されていると同一の意義に解されるべきであり、憲法第八四条のいわゆる租税法律主義は、このことを要請しているものといわねばならない。

とりわけ、公権力の行使に当つては、それが国民の権利義務に重大な影響を及ぼすことよりして、法規の解釈、適用に一層の謙抑が要求されるのであり、さらに、租税法律主義が、国民の自由権、財産権の保障を目的とするものであることを考えれば、租税法規の解釈において、課税要件に関する規定の拡張ないし類推解釈は、国民の自由権、財産権を違法に侵害するものとして、許されないものというべきである。

(ロ)  一般私法上、預金の利子とは、銀行その他の金融機関が寄託を受けた金員の対価として支払う金員を指称するものと解されていること、及びわが税法の沿革上も、預金の利子に対する源泉徴収制度が、銀行その他の金融機関が消費寄託の対価として支払う金員を正確に捕捉する趣旨で創設され、今日に至つていることは前述のとおりであり、このことに、右所得税法制定当時いわゆる株主相互金融の業務形態が存在していなかつたことを考えあわせれば、所得税法にいう預金の利子が、銀行その他の金融機関が寄託を受けた金員の対価として支払う金員を課税対象とする規定であることは明白であり、破産会社が株主に利息名義で支払つた金員は所得税法第九条第一項第一号所定の預金の利子に当たるものではなく、神奈川税務署長も本件徴収決定までは、かような見解の下に、破産会社に対し、株主に支払つた利息名義の金員についての源泉徴収決定はしていなかつたのである。

しかるに、昭和二八年初頭いわゆる株主相互方式及び匿名組合方式による業務形態が世間の注目をあび、議会でも論議されるようになつたところから、政府当局では、右各方式による資金の受入が一般的には金融法規に触れないものとしながら、脱税の防止と租税負担の公平の名目で、右業務形態の会社が資金受入の対価として支払う金員を、支払の源泉において補捉課税することとし、昭和二八年三月三日付国税庁長官通達直所一の一七号「株主相互金融株式会社及び匿名組合契約方式等により資金を調達し運用する者に対する課税について」をもつて、「株主相互金融株式会社等が当該株式会社の株主から借り入れ又は預つた金銭は法人に対する消費寄託と認め、これの対価として株主が受ける所得は所得税法上の利子所得として課税する」ことその他を指示し、神奈川税務署長は、これに従い、昭和二七年七月一五日破産会社に対し、昭和二六年六月分に遡つて、本件徴収決定したものであるが、これが所得税法第九条第一項第一号所定の預金の利子を拡張ないし類推解釈し、租税法律主義に違反し、憲法の保障する国民の自由権、財産権を違法に侵害するものであることは、前述のところから明らかである。

五、よつて、本件徴収決定は無効であり、これに基づき破産会社及び前破産管財人須々木平治が被告に納付した合計金二〇、三七三、七六〇円は、法律上の原因なくして被告が不当に利得しているものであるから、原告は被告に対しその返還とこれに対する右金員納付後の昭和三二年一二月一五日から支払い済みに至るまで年五分の遅延損害金の支払いを求める。

六、仮りに、右不当利得に基づく請求が理由なく、これを棄却されるならば、破産会社は金二〇、三七三、七六〇円の損害を被ることとなるが、右損害は神奈川税務署長の違法な本件徴収決定(その違法であることは前述のとおりである。)によるものであるところ、決定当時、神奈川税務署長が、所得税法第九条第一項第一号所定の預金の利子の解釈について、職務上当然要求される注意義務を尽しておれば、破産会社が株主に支払つた利息名義の金員が同条にいう預金の利子に該当するものでないことを当然知り得たのにかかわらず、この注意義務を怠り、漫然前記通達に従つて本件徴収決定をしたのであるから、この点において少なくとも、過失があつたものというべく、よつて、原告は、予備的に、国家賠償法第一条第一項により、被告に対し金二〇、三七三、七六〇円の損害賠償を求める。

原告訴訟代理人は、以上のとおり主張し、証拠として、甲第一号証、同第二号証の一ないし八、同第三ないし第五号証、同第六号証の一ないし三、同第七号証の一ないし八、同第八号証の一ないし四、同第九号証、同第一〇号証の一ないし八、同第一一ないし第一三号証、同第一四号証の一ないし四、同第一五号証の一ないし五、同第一六号証、同第一七ないし第一九号証の各一、二を提出し、証人星山嘉一、同佐野英武、同高橋昭、同中島繁弥、同今井虎吉の各証言を援用し、乙各号証の成立をいずれも認めると述べた。

被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、原告の請求原因に対し、(イ)請求原因第一、第二項の事実を認める、(ロ)同第三項の事実のうち、番号1ないし3の納付は知らないが、同4ないし10の納付は認める、(ハ)同第四項1の事実を認める、なお、株主相互金融は、戦後の混乱した経済状勢、特に逼迫した金融事情を背景に、「中小企業への簡易な融資」と「庶民の有利な利殖」を標榜して勃興した金融方式で、形式的には株式会社の組織を利用することによつて、銀行業法及び貸金業等の取締に関する法律(昭和二四年法律第一七〇号。昭和二九年法律第一九号により廃止。)の規制を巧みにかわす仕組みとなつており、この方式による金融業者が出現したのは昭和二四年頃からで、利廻りの高い有利な利殖手段であつたため、保全経済会の如き匿名組合方式によるものとともに、一時は数百に及ぶ業者の簇生をみて、いわゆる「街の利殖機関」として、一般大衆から数百億円にのぼる資金を吸収するに至つたが、昭和二八年一〇月末保全経済会の倒産を契機として、同業相次ぎ倒産し、急速に凋落の一途を辿つたものである、(ニ)同第四項2の(イ)の事実及び同(ロ)の事実のうち、原告主張のような利殖契約があつたことを認め、その余を争う、(ホ)同第四項2の(ハ)の主張を争う、(ヘ)同第四項3の主張を争う、(ト)同第四項4の事実のうち、原告主張の内容の国税庁長官通達が出されたことは認めるが、その余は争う、(チ)同第五、第六項を争うと答弁し、別紙「被告の主張」のとおり主張し、証拠として、乙第一ないし第一二号証を提出し、証人佐野正吾、同草薙養之助の各証言を援用し、甲第一〇号証の一ないし八、同第一一号証、同第一七ないし第一九号証の各一、二の成立は不知、その余の甲各号証の成立はいずれも認めると述べた。

理由

本訴の主たる争点は、破産会社が利殖契約に基づき株主より受け入れた金銭に対し、利息名義で支払つた金員が、所得税法第九条第一項第一号の預金の利子に当るかどうかにある。

預金の意義については、所得税法は特別の規定を置かず、その他の法令にも預金について定義したものはないから、所得税法第九条第一項第一号の預金がなにを指すかは、一般に預金の名で理解されている経済現象を探り、また所得税法が、預金の利子を利子所得として、特に所得類型化していることの意味を理解することによつて、決められなければならない。

一般に預金と呼ばれる経済現象は、典型的には銀行取引において見られるように、金融機関その他資金を利用する者が不特定多数の者から、その資金利用者の定めた定形的な約款によつて金銭を受け入れ、資金利用者はこれを事業資金にあて、預入れ人は、いわゆる当座預金の場合を除き、通常一定割合の金員(利子)を取得し、その金銭の返還についての保証は、資金利用者の信用に委ねられている場合を指すものと解されるところ、所得税法が、公、社債の利子、合同運用信託の利益等とともに、預金の利子を利子所得として類型化し(第九条第一項第一号)、これについて、その支払者に所得税の源泉微収義務を課している(第三七条)のは、これがいずれも不特定多数の者に対する定形的、継続的な金員の支払いであるとの特質を持つことによるものというべきであり、従つて、所得税法は、前述のような預金といわれる経済現象をもつて、同法にいう預金として予定しているものと解される。

原告は、預金かどうかは、それが消費寄託か消費貸借かによつて決められると主張する。確かに、預金の受入は、預入れ人の金銭上の価値を保管するという面のあることは事実であり、従つてこれを消費寄託契約と呼ぶことも、一応誤まりとはいえまい。しかし、消費寄託については、返還の時期を除き、その他については、すべて消費貸借の規定が準用され(民法第六六六条)、しかし、返還の時期に関する特則も任意規定にすぎないから、契約当事者間で民法と異なつた取決めをすることも自由であつて、その意味では、消費寄託といい、消費貸借といつても、両者は法的に極めて近似したものであり、しかも、典型的な預金である銀行預金についても、当座預金、特別当座預金(普通預金)、通知預金、定期預金等の種類に応じて、それぞれ態様を異にするものであり、定期預金のように、預入れ期間中銀行は支払準備なしに資金として自由に運用することができ、預金利率も高く、その意味で、消費貸借的色彩が強いものもあつて、決して単純な典型契約をもつて一様に律することはできないというべきである。

また銀行預金の経済目的を見ても、それは、決して単に預金者の金銭上の価値の保管だけにあるのではなく、預金者の側の利子の取得、銀行におけるその価値の利用を目的とするものであり(銀行間において、預金の獲得のため、激しい競争が行なわれているという、世上常識として知られている事柄として当裁判所に顕著な事実も、預金が、同時に銀行のためのものでもあることを示すものである。)、従つて、原告の主張するように、問題の金銭の受入れが預金かどうかは、単にそれが典型的契約としてしの消費寄託に当るかどうかの一事をもつて決められるものではない。

原告は、さらに、預金の利子とは、私法上、銀行、相互銀行等の金融機関が消費寄託の対価として支払う金員を指称し、所得税法上も、これと同一意義に解すべきものと主張する。しかし、銀行法によれば、預金の受入れと金銭貸付けまたは手形の割引を合せて行なう者を銀行とし(第一条第一項)、営業として預金の受入れを行う者を銀行とみなし(同条第二項)、無免許の銀行営業について罰則を定めているが(第三三条)、これらの規定によれば、預金の概念は、原告の主張するように、銀行の概念に従属するものではなく、反対に銀行の概念に先行して、預金の概念が存在することは明らかであり、預金の概念は、銀行等の金融機関の概念とは一応別個に、それ自体独立して存在するものというべきである。また所得税に関しても、昭和二六年法律第六二号による改正以後の租税特別措置法第二条の二は、銀行預金その他命令で定める預金の利子について、いわゆる分離課税を認め、同法施行規則第四条の三で右規定の適用を受ける銀行預金以外の預金として相互銀行等のいわゆる金融機関が列挙されているところ、原告の主張するように、預金とは銀行等の金融機関に対する消費寄託のみを指すものとすれば、このような分離課税を受くべき預金として、金融機関に対する預金に限定する趣旨の規定を置かなくても、預金といえば、金融機関に対する預金しかないこととなり、右規定は無用のものとなるが、しかし、これを合理的に理解する限り、預金には、金融機関に対するものとそれ以外のものとがあり、特に前者について分離課税を認めたものと解すべきことは当然で、従つて、所得税法もまた、金融機関以外の者に対する預金を予定しているものというべく、預金とは金融機関に対する消費寄託に限られるとする原告の主張は採用できない。

また、原告は、預金の利子が課税対象とされた大正九年当時破産会社のようないわゆる株主相互金融の業務形態は存在しなかつたから、破産会社が株主に支払つた利息名義の金員を利子所得に当ると解することは、租税法規の拡張ないし類推解釈を許さない租税法律主義の原則に反するとも主張する。

原告の主張するとおり、租税法規の解釈に当り、安易にこれを類推ないし拡張解釈することは許されないものというべきであるが、所得税法は所得の経済的実態に着目して、その租税力を把握し、これを所得類形化するとともに、その経済的実態に応じた微税方法を定めているものと解されるところよりすれば、所得税法の課税対象について、類推ないし拡張解釈が許されないのは、所得税法の所得類型が予定する特定の収入と経済的、実質的内容を異にする収入を、その法形式上の類似を理由に、納税者に不利益に規定を類推、拡張解釈して、その所得類型に包摂することを禁止することにあるのであつて、経済的、実質的に所得税法の予定した所得類型の収入と異ならないものを、ただその法形式上の相違からこれと区別して取り扱うべきものとすれば、かえつて所得税法が本来収入の経済的実態に応じて担税力を区別していることと矛盾し、税負担の公平に反することとなる。従つて、問題は、原告の主張するように、利子所得を定めた当時、いわゆる株主相互金融の業務形態が存在していたかどうかにあるのではなく、破産会社が株主に支払つた利息名義の金員が、所得税法の予定する前述のような利子所得と経済的、実質的に異なるものであるかどうかが、検討されなければならないというべきである。そこで、以上のような観点から、以下破産会社の業務の実態を考察する。

当事者間に争いのない事実といずれも成立に争いのない甲第一号証、同第二号証の一ないし八、同第三ないし第五号証、同第六号証の一ないし三、同第七号証の一ないし八、同第八号証の一ないし四、同第九号証、同第一二、第一三号証、同第一四号証の一ないし四、同第一五号証の一ないし五、乙第一ないし第一二号証証人中島繁弥の証言及び同証言により真正に成立したものと認められる甲第一〇号証の一ないし八、証人佐野英武の証言及び同証言によつて真正に成立したものと認められる甲第一八、第一九号証の各一、二、証人星山嘉一、同高橋昭、同佐野正吾、同草薙養之助の各証言とを総合すれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

破産会社は、昭和二六年七月日本勧業振興株式会社の事業のうち、多摩川以西の営業活動を引き受けて設立されたもので、会社の目的としては、不動産の売買、賃貸及びその仲介、集金の受託、生命保険の代理並びに小口金融等があつたが、破産会社の事業の中心は、当初より貸金業であつて、貸金業等の取締に関する法律(昭和二四年法律第一七〇号。以下単に貸金業という。)第三条第一項による貸金業の届出書を昭和二六年九月一八日受理され、同年一〇月一日より貸金業を開始した。破産会社の貸金業は、いわゆる株主相互金融方式によつて営まれたが、その大要は次のとおりである。破産会社より融資を受けようとする者は、原則として一口六株の破産会社の株式(株式額面一株金五〇〇円)を取得することを必要とし、所要の株式を取得した者に対しては、一口につき金一〇、〇〇〇円ないし金一五、〇〇〇円の融資が最高一〇口まで行なわれた。もつとも、破産会社においては、このような方法によらない一般の貸付も行なわれており、前者の株主に対する貸付けが定型化されていたのに対し、後者の一般貸付において、個々に貸付条件が契約された。他方、これら貸付資金の調達のため、破産会社は利殖契約と呼ばれる方法により、広く一般大衆から資金の調達をはかつたが、その方法は、利殖契約として、日掛、月掛、一時払いの定型化された資金の受入方法とこれに対する一定の利息を定め、この利殖契約を利用しようとする者は、破産会社の株式一株以上を取得すべきものとするものであつた。融資希望者利殖希望者の取得すべき破産会社の株式の譲渡のため、破産会社では、新株発行の際、会社役員等の縁故者に資金を貸し付けて、これを一括して引き受けさせ、融資希望者、利殖希望者にその譲渡を破産会社が幹旋するという方式をとり、利殖希望者は、株式の取得に当り、株式代金五〇〇円を金一〇〇円づつ五回に分割して納付することが認められていたが、その場合には、破産会社がひとまず金五〇〇円を立て替えておくとの形式がとられた。しかも、昭和二七年五月未までは、利殖契約希望者からは、現実には株式代金を受けとらず、ただ名目的にこれらの者を株主とするため、破産会社において、内部的に利殖希望者のため株式代金を立て替えたように経理操作していたにすぎなかつた(乙第九号証)。もつとも、破産会社においては、株券台帳(甲第一八、第一九号証の各一、二)が置かれ、株主の氏名が登録されていたが、その住所欄にはなにも記載されておらず、株主総会の通知は、一応これら株主にもすべて行なう建前にはなつていたが、現実には通知を受けない株主もあつた(草薙証人)。(なお、破産会社において、株主総会がどの程度まで正式に行なわれていたかは疑わしい。すなわち、証人高橋昭の証言によれば、同人が昭和二七年六月に入社してから、株主総会は昭和二八年三月と同年一二月にあつただけで、同人は会計課に勤務し、総会通知の費用を支出していたから右事実は誤りないと証言するが、甲第一号証、同第六号証の三によれば、昭和二七年八月二九日臨時株主総会が開かれ、定款の大幅な改正と役員の選任が行なわれて、もの旨の登記も行なわれている事実が認められ、高橋証人の証言と喰い違いがある。)利殖契約が満期となつて、金銭の返還を受ける際、株式代金も破産会社から返還された。破産会社は、これを株式譲渡の斡旋と称し、利殖希望者に返還される株式代金は、破産会社が立て替える取扱いをしていたが、何人に対する立替えかは明白でなかつた。

以上のような方式の下に、破産会社は、外交員やパンフレツト等を使つて、「小が積りて大となる」(乙第一号証)とか、「商業資金、納税準備金は日勧相互で」(甲第一〇号証の四、乙第四号証)等の標語の下に、利殖契約が高利であることと破産会社への資金の提供が安全であることを強調して、利殖契約希望者を募り、これに応じた者は、破産会社の利殖契約が銀行預金に比べて高利であつたことによるもので、これらの者が一応破産会社の株主となつたのは、株主となることが利殖契約を結ぶための条件とされていたためにほかならず、株主になること自体は、特に利殖契約を結ぶための条件とされていたためにほかならず、株主になること自体は、特に利殖契約希望者の目的ではなかつた。なお、破産会社は、利殖契約による資金の受入れのほか、第三者から金銭の借入れを行なつたことがあるが、利殖契約については、なんら担保を提供しなかつたのに(ちなみに、一人で数十万円の利殖契約を結んでいた者もあつた。)、この第三者からの借入れに対しては担保を提供していた。

昭和二八年四月頃破産会社は大蔵省より業務の実態調査を受け、利殖契約による資金の受入れは、貸金業法第七条に違反する疑いがあるとして、業務停止の予告を受け、結局、業務停止の行政処分を受けることはなかつたが、これを契機に利殖契約による資金の受入れを癈し、資金の受入れは、全部株式の発行とその譲渡斡旋の方式によることとなつた。しかし、同年暮頃株主相互金融の一種として匿名組合方式により、広く一般より資金を受入れていた保全経済会が倒産したことから、破産会社に対する利殖契約者らの信用を失ない、破産会社も昭和二九年一一月九日横浜地方裁判所において破産宣告を受けることとなつた。以上の事実が認められる。

株主相互金融方式による金融業が、昭和二四年頃から出現し、多数の業者が簇生して、それが利廻りの高い有利に見える利殖手段であつたところから、一時は一般大衆から巨額の資金を吸収したこともあつたが、昭和二八年末の保全経済会の倒産を契機に、同業相次いで倒産したこと、このような金融方式が行なわれたのは、逼迫した金融事情から銀行等の金融機関からの融資を受けることが困難な中小企業の側からの強い資金需要があつたことを背景とするものであるが、特に株主相互金融方式が選ばれたのは、貸金業法による預り金の禁止(第七条)を潜脱するために、株式の譲渡または株主からの借入の形式を整えたものであること、以上の事実は、世上常識として知られている事柄として当裁判所に顕著な事実である。このように、株主相互金融方式は、法規の規制を巧みに潜脱することを目的としたため、そこに法律上の疑点の存在することは否定できず、破産会社の場合について見ても、新株の発行に当たり、これを会社役員その他縁故者に引き受けさせ、その払込資金を全額破産会社が貸し付けていた点は、会社法上の基本原則たる資本充実の要請に反する疑いがあり、破産会社がこれら株式を保管し、また利殖契約申込者が株式の譲受代金を全額支払うまで破産会社が保管する取扱いをしていたことは、自己株式を質権の目的とした疑いがあり、また利殖契約者が利殖契約が満期となつて金銭の返還を受ける際、破産会社が利殖契約者の株式代金を立て替えていたことは、自己株式取得が疑がわれる(商法第二一〇条)。もつとも、破産会社においては、これらを株式の保管とかその譲渡の斡旋と称していたのであるが、例えば譲渡の斡旋といつても、具体的に株式の譲受希望者の有無にかかわらず、破産会社がその譲渡代金を立て替えて、満期となつた利殖契約者に支払つていたのであるから、これを実質的に考察する限り、上記のような疑問は拭い難いものといわねばならず、これらの事実は、破産会社における利殖契約者等の株主の地位が、貸金業法第七条を潜脱するための形式的なものにすぎなかつたことを窺わせるものといわねばならない。

以上の事実に基づき、破産会社の利殖契約の経済的事態を検討すれば、それは不特定多数の者(破産会社が株主資格を要求したのは取締法規の潜脱にすぎないことは、先に認定したように、昭和二七年五月末まで、利殖契約希望者から現実に株式譲渡代金を徴さず、破産会社の内部の経理操作により立て替え処理していたことからも窺われるところであつて、従つて利殖契約者が形式上破産会社の株主であつたことかの一事をもつて、それが特定の者に限られていたものといい得ないことは明らかであるから。)日掛け、月掛け、一時払いという破産会社の定めた定型的な方式により金銭を受け入れ、これについて高利を約し、その資金を破産会社の金融業務に当つていたもので、利殖契約として一〇〇日ないし一年という比較的短期間の返還期日を定め、一口の契約全額も金五、〇〇〇円ないし金三六、〇〇〇円という少額で(この事実は当事者間に争いがない。)あり、しかも、利殖契約については、破産会社が他から借り入れていた場合と異なり、担保は提供されておらず、実態において、銀行等の金融機関に対する定期予金または積立預金となんら異なるところがなかつたのであり(高橋証言)、保全経済会の倒産により、破産会社を含む株主相互金融方式による事業者が相次いで倒産するに至つたことも、保全経済会の倒産により、利殖契約者が破産会社に金銭を拠出してその価値の保管を託することに危惧の念を持つたことによるものと解され、破産会社における利殖契約の実態は、所得税法第九条第一項第一号の予定する預金にほかならず、利殖契約によつて支払われた利息名義の金員は、預金の利子に当るものといわねばならない。

原告は、利殖契約において借入金の名称を用い、また利殖契約の証書に消費貸借として印紙を貼付したこと、利殖契約申込者において銀行預金の場合とは異なつて、返還についての危険を予則していたことなどを理由に、利殖契約は消費貸借であつて、預金ではないと主張し、甲第八号証の四、同第一〇号証の七、同第一一ないし第一三号証、乙第四号ないし第六号証、同第八号証によれば、破産会社の約款には、利殖契約により株主より金銭を借り入れるものである旨の記載があり、この約款の文言が利殖契約の払込領収証書、契約証書等に記載されていることが認められ、また証人高橋昭、同佐野英武の各証言によれば、破産会社では当初利殖契約の契約証書に消費貸借契約としての印紙を貼つていなかつたが、厚木支社管内で税務当局よりその非違をとがめられたため、あらためて消費貸借契約書としての印紙を貼りなおしたことが認められる。しかし、最初に述べたとおり、所得税法上の預金に当るかどうかの判断に当たり、問題の契約が消費寄託か消費貸借かが決め手となるものではなく、まして、契約当事者がつけた法的呼称によつてこれが左右されるものではないことは明らかであり(もし、当事者の法的呼称によつて納税義務が左右されることとなれば、納税義務者は容易に租税を免れ得ることになつて、租税負担平等の原則に背くこととなる。)しかも、前述のように、破産会社が利殖契約による資金の受入れを借入れと称したのは、貸金業法第七条に抵触することを慮つたうえのこととも解されるのであるから、問題は、破産会社の利殖契約の経済的実質いかんにあるのであつて、その実態が前認定のとおりである以上、右のような事実は、破産会社が利殖契約により利息名義で支払つた金員を所得税法第九条第一項第一号にいう預金の利子と認めることの支障となるものではない。また、利殖契約の契約証書の印紙に関する事実も、破産会社のように複雑な法形式を採用している場合には、収得税たる所得税と流通税たる印紙税とのそれぞれの関係で異なつた取扱いが行なわれても、ある程度までやむを得ないところいうべく、また右の一事をもつて、利殖契約の経済的実質に変動を来たすものでもないから、この事実もまた利殖契約による支払利息を預金の利息と認めることの妨げとなり得るものではない。(のみならず、破産会社において、税務当局の注意があるまで、利殖契約の契約証書を消費貸借契約書として印紙税法上の印紙を貼用していなかつたことは、破産会社自身利殖契約を単純な消費貸借と認めていなかつたことを示すものといえよう。)さらに、利殖契約の申込者が、破産会社に銀行と同程度の信用を与えていなかつたとしても、証人草薙養之助、同中島繁弥の各証言によれば、利殖契約申込者は、破産会社と利殖契約を結ぶに当たり、将来返還を得ないような事態が発生するというようなことは事実上予想していなかつたと認められるのであり、前認定のとおり、破産会社も利殖契約の勧誘に当たつて、その安全性を強調していたのであつて、この点においても、利殖契約を所得税法上の預金と認め得ない程の実質上の相異があつたものとはいえず、前述のように保全経済会の倒産により、利殖契約者らの信用を失ない、破産会社が倒産することとなつたことは、それまで利殖契約者がその拠出した金銭の価値の安全の保管を信じていたのが、保全経済会の倒産によつて、そこなわれるにいたつたことによると解されるのである。

以上の次第で、破産会社が利殖契約に基づき支払つた利息名義の金員を所得税法第九条第一項第一号の預金の利子に当るものとして、神奈川税務署長がした本件微収決定には原告主張のような違法はなく、その他右徴収決定の無効事由についてはなんら主張、立証がないから、その無効を前提とする原告の不利当得返還請求は、その余の点を判断するまでもなく失当である。

さらに、原告は、予備的請求として、本件徴収決定の違法を前提に国家賠償法に基づく損害の賠償を請求するが、前述のとおり本件徴収決定は違法ではないから、右請求もまた、その余の点を判断するまでもなく失当といわねばならない。

よつて、原告の本位的請求、予備的請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 白石健三 裁判官 浜秀和 裁判官 町田顕)

「被告の主張」

一 「利息」または「利殖配当金」名義の支払金は、所得税法九条一項一号所定の「預金の利子」に当るものである。

(一) 所得税法上において、利子所得とは、公債、社債及び預金の利子、合同運用信託の利益並びに公社債投資信託の収益の分配をいうのであるが(同法九条一項一号)、この場合の預金とは、「銀行などの金融機関その他資金を利用する者」が不特定かつ多数の者に対して金銭の保管を行なうことを契約して受入れた金銭を指称しているものである。そして、その金銭を受入れる契約の性質は一応消費寄託契約と包括的に呼称しうるとしても、決して画一的な単純な消費寄託契約ではなく、金銭を受入れる契約のなかには、顧客の利益に重点をおくよりもむしろ受託者(銀行等)の利益のためになされていると思惟されるもの(たとえば、定期預金、積立定期預金)や、特定の経済的目的のために顧客をして投資させそれを受託者(銀行等)において運用することが内容となつているもの(たとえば、信託預金、歩積預金)など種々のものがあり、通常の場合においても預金の目的は顧客(寄託者)の利益のほか受託者(銀行等)の利用ないし利益をも目的としているものであるから、右金銭を受入れる契約の性質は正確にいうと単純な消費寄託と解するよりも消費貸借の性質をも併有した特殊な契約と解すべきものであり、従つて、右預金はこの特殊な契約に基づいて受入れられた金銭を指称していると解すべきものである(民事法学辞典上巻九八九頁参照)。

(二) ところで、破産会社は「庶民の金融機関」を標榜して創立された日本勧業振興株式会社(日本勧業振興)の多摩川以西の営業活動を引受けるために設立されたもので、会社の営業方法も設立当初から日本勧業振興のそれを踏襲したのであり、株主相互金融方式により払込を受ける株式代金だけではその営業資金が不足するところから、株式代金以外の方法で顧客から資金を吸収するため、一般の銀行預金よりも高率の利息が得られる旨の勧誘宣伝をなし、利殖契約の形式で不特定多数の者から多額の金銭(預金)を受け入れたのである。しかして、破産会社がこの利殖契約に基づき受入れた金銭は、顧客の申出に応じ一〇〇日ないし一年という比較的短期間の返還期日を定め、また一口の契約金額も五、〇〇〇円ないし三六、〇〇〇円と少額であるのみならず、その受入方法も一時払のほか、日払、月掛による受入を認めていたのである。それで、このような利殖契約は、銀行その他の金融機関に対する定期預金または積立定期預金と全く同内容のものであり、顧客の利殖ないし小口かつ簡易な貯蓄などの目的に専ら奉仕する金銭受入形態であつて、金銭を醵出しようとする顧客側の便宜ないし利益に供することを主眼とするものであることは多言を要しないところである。のみならず、もし破産会社の便宜ないし利益を第一義としてなされた借入金であるならば、金銭を醵出しようとする顧客において醵出した金銭の返還を確実ならしめるため破産会社に対し担保を徴すべき筈であるのに担保を徴したことは全くなかつたのであるから、この点からいつても、破産会社は顧客から金銭をその価値の安全な保管を本旨として預金として受入れたものというべきであり、そして、保全経済会が倒産するに至ると破産会社においても顧客から資金を吸収することが極めて困難となつた事実は、顧客が破産会社に対し金銭を醵出してその価値の安全な保管を託することに危惧の念をもつたことによるものである。

従つて、破産会社が顧客から右のような方法でなした金銭の受入れは、消費貸借ではなく、銀行などに対する預金と全く同一の内容のものといわざるを得ないのである。(本件と同じ受入れ金について裁判例は一貫して所得税法上の預金に当ると解してきている。東京地裁昭和三七年三月二三日訟務月報八巻五号四七頁、千葉地裁昭和三七年一二月二五日例集一三巻、一二号二二七七頁等参照)。

(三) 原告は、「利殖契約の実態は遊金を有する株主が銀行その他金融機関に預金する場合に比し、より高利の対価を得る目的でその金員を約款に基づき定型的方式で会社に、貸与し、会社は右借用金を融資希望の株主に貸与する外、会社の営業目的に活用し、当該利殖株主に支払うべき元利金以上の利潤を得ることを目的としたのであるから、利殖契約を締結する当事者の意思は飽く迄金員の貸与、借用であつて、寄託、保管ではない」と主張される。

しかし、税法上、受入れられた金銭が預金または借入金のいずれに属するかは、単に当事者によつて選ばれた法律的形式ではなく、その内容ないし実質(経済的性質)を検討して判定すべきものであるところ、営業資金を取得するために一定利率による利息を付して返還する約定のもとで金銭を受入れる契約は、何も消費貸借契約だけに限られるものでなく、消費寄託契約によつて受入れた金銭もまた営業資金として利用することが可能であり、まして本件における如く、不特定多数人に対して一定の高利息の支払約束をもつて金銭の提供を勧誘宣伝し、これらの者から金銭を受入れ、この受入れた金銭でもつて金融事業の資金にあてている場合は、一般の銀行預金と全くその性質を同じくするものであり、まさに本件の受入れ金は所得税法上の預金に当るものというべきである。

それで、破産会社において本件受入金につき「利殖契約」、「利息」また「利殖配当金」という名称で呼ぶこととし、「預金」また「預金の利子」の呼称することを避けたのは、ただ「貸金業等の取締に関する法律」の禁止を潜脱するためであり、その「利殖契約」「利息」または「利殖配当金」という名称は全くその内容にそわない全く形式的な名称にすぎないものというべきである。

なお、原告は利殖契約を締結するについて株主となることが必要であつたと主張されているが、破産会社が利殖契約名義で金銭を受入れるについて前述のとおり広く一般に対し広告宣伝して醵金の申込を誘引していたこと、その契約内容が定型的であり様式化されていたこと、それに、利殖契約において利殖醵出金以上に株式購入代金が払込まれていたものでなく、そのうちの一部が破産会社内部において株式代金に充当されるよう仕組まれていたこと、また満期解約のときは返還金のなかに破産会社が経理上株式を売却したことに操作した固定的な一定の株式売却代金を含ませていたこと等に徴すると、破産会社は金銭受入れの相手方を特定のものに限定していたのではなく、破産会社の広告宣伝や勧誘に応じて醵金しようとする顧客を誰彼の区別なく相手方としていたものということができる。

以上のとおり、本件利殖契約において問題とさるべき点は、本件利殖契約による金銭の受入れが消費寄託であるか消費貸借であるかということではなく、破産会社が顧客から受入れた利殖金が所得税法上の預金に当るか借入金と見るべきものかということである。本件利殖契約による金銭の受入れが単純な消費寄託に当らないとしても、所得税法上の預金に該当することは明らかであり、また、その受入金の額、期間等に応じて支払われている金銭が「利息」また「利殖配当金」という名目のいかんを問わず預金の利子と同一の内容を有することは明らかであるといえよう。

(四) さらに、原告は所得税法制定当時いわゆる株主相互金融の業務形態は未だ存在しなかつたから所得税法にいう預金利子なる規定は銀行その他の金融機関が寄託をうけて支払う金員を対象として立法されたものであり、金融機関でない破産会社が株主に支払つた利息名義の金員は預金利子に該当しない旨主張される。しかし、所得税法制定当時において株主相互金融の業務形態が未だ存在しなかつたということだけで、預金の利子が法律に基づき正式に認可を受けた金融機関の預金の利子に限らるべき理由はない。

金融機関でない者が不特定または多数の者から利殖契約に基づいて金銭を受入れる場合においても、その行為が出資の受入、預り金及び金利等の取締に関する法律(昭和二九年法律第一九五号)旧貸金業等の取締に関する法律等に違反するかどうかにかかわらず、その預金が金融機関によるそれと同一の内容ないし実質をもつものである場合には、所得税法上の預金に該当し、受託者が寄託者に対してその寄託金の額、期間等に応じて支払う金銭は、その名目のいかんを問わず、預金の利子に該当するというべきである(同旨、前掲東京地裁昭和三七年三月二三日および千葉地裁昭和三七年一二月二五日等)。

(五) なお、課税処分が無効となるのはその課税処分に重大かつ明白なかしがある場合と解されているのであるが、本件「利息」ないし「利殖配当金」を預金の利子と判断したことについて少なくとも明白なかしはないから、この一点からいつて本件請求は全く失当なものということができよう。

二 原告は、本件所得税の決定処分が違法でありかつ預金の利子の解釈にあたり神奈川税務署長に過失があるから破産会社の財産上の損害を賠償する責任がある旨主張される。

しかし、法律の解釈適用が一見して明瞭でない場合に、当該公務員の行なつた解釈適用が裁判所の判断によつて結局において誤りであると判断されたからといつて、当該公務員に過失があつたことにはならない(同旨、東京高裁昭和二九年三月一八日高民集七巻二号二二〇頁、大阪地裁昭和三〇年四月二日下民集六巻三号四七六頁等)。本件の法文について神奈川税務署長の行なつた解釈適用は、前述のとおり同種事案において裁判所でも繰返し容認されているほど合理的なものであるから、本件神奈川税務署長の法律の解釈適用ないしこれに基づく課税処分に過失があつたとは到底解されえない。

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